プロローグ
第六巡選択希望選手
千葉ロッテ 桐谷大樹
外野手 パワフル商事
そうアナウンスされた瞬間、ドラフト会議の客席からはどよめきが起こる。
「誰?」「聞いたことない」
そういった声も聞こえるのも当然、彼……桐谷大樹(きりたに・ひろき)はドラフト候補に名前すら挙げられていない選手だったからだ。
打球は外野に飛ばない、肩は弱い、大事な場面で落球……有志が撮影した動画には散々な様子が映る。
本来なら即戦力であるべき社会人選手が、「2年後にはクビ」「そのへんの高校の帰宅部を取ってくるほうがマシ」、そうまで言われた。
桐谷の職場では、指名された喜びよりも、
「あいつがプロでやっていけるのか?」
という心配ばかりされてしまい、
球団オーナーとの初対面でも、
「キミが……なんだったかな、
そうだ、桐谷くんだ!」
と名前を忘れられかけてしまう始末。
コーチにもプロとしての素質を疑問視され、
ネットでも毎日のようにネタにされ、叩かれていた。
そんな桐谷に唯一といっていいほど友好的に接したのが、同期で彼の次に指名された奥居紀明(おくい・のりあき)だった。
桐谷と同じ社会人選手だが、即戦力とは言い難く、同じような扱いを受けている桐谷にシンパシーを感じたらしい。
そんな彼らは、果たしてプロの舞台で活躍できるのだろうか。
2月、春季キャンプ。
彼らの物語の始まりである。